金融機関のDX実現へ、避けては通れないペーパーレス
(里見)本日は、金融機関におけるDXの推進をテーマにお話していきたいと考えております。田村様は、金融事業でのご経歴が長く、金融機関とのビジネスに多数携わっていると聞いております。
(田村)私は、最初に日系の電機メーカーに入社しました。その後、別の会社で金融業界向けの営業などを担当し、SAPジャパンに入社し、金融事業責任者として国内金融業界向けのERP事業の立ち上げなどを行いました。2015年にセールスフォースに入社しまして、金融営業本部長として、国内の金融機関向けのサービスを担当しております。現在は、エンタープライズ金融&地域DX営業統括本部の統括本部長になりまして、公共部門と金融部門の営業を統括しております。そのため、キャリアのほとんどを金融業界に携わる仕事をしてきました。
(里見)セールスフォース社とオプロは、2007年からパートナーとして協業しています。近年は金融業界でのセールスフォース製品の利用が増えており、その世界観も広がっております。この背景や、今後の製品展開に向けた課題はありますか?
(田村)現在では多くの金融機関で採用いただいているセールスフォース製品ですが、私が入社した2015年当時は金融業界での導入はほとんどない状態でした。一部の保険会社ではシステム開発のプラットフォームとして採用いただいていましたが、業界全体としての利用は少なかったです。
その原因は、「システムのクラウド化のハードルが高かったこと」、「金融業界のIT部門がオンプレ志向だったこと」です。そこで、金融機関の営業部門へのアプローチを行いました。なぜなら、営業やコンタクトセンターといったユーザーに近い現場の担当者は、生産性向上や成果の創出を重要視しているからです。そこから製品への理解が進んできたと思います。
2017年を分岐点に、CRM(顧客管理)システムの利用が拡大していきました。しかし、同時にセールスフォース製品単体では、カバーできない領域も増え、パートナー企業の製品との連携を進める必要がありました。その領域の1つが、「ペーパーレス」です。
金融業界が「人は増やせないけど、成長しないといけない」という課題を抱える中、コロナ禍になり、「紙」が事務削減や働き方の変化を止めているという声が出てきました。DXの実現にはデジタル化が必要で、ペーパーレスは避けては通れない。そこでオプロと一緒に、事務やバックオフィスの仕組みを変えていければと考えました。
金融業界、その先の企業へDX支援を目指す
(里見)オプロは、帳票類を電子化して出力するアウトプット型サービスからスタートしました。対して、「カミレス」は手続きの申請から承認プロセスを効率化するインプット型です。プラットフォームにセールスフォースを採用することで、どのように互いの強みを生かせるかを意識しています。金融機関や行政機関のDX化の進展を見据え、2021年から注力している製品です。
金融は、行政による指導が厳しい業界です。また、異業種が金融業界に新規参入することがあっても、金融機関が新たに事業を始めるということは、ここ最近まで難しかったのではないでしょうか。セールスフォース社での金融機関との協業案件はございますか?
(田村)弊社にとっても、金融機関は最大のパートナーになりえる存在です。法人部門は、「融資」という企業の事業成長を支える機能を保有しています。弊社も金融機関の先にいる取引先の支援ができればと考えています。
現在、メガバンク3行・りそな銀行には、それぞれグループ会社を通じてセールスフォース製品の販売をしていただいております。取引先に対する本業における経営指導の元、お客様のDX化の取り組みを一緒に収益化していこうとしています。これは金融機関にとって新たな収益事業となります。また、弊社の製品を勧めていただくには、金融機関も成果を体感することが重要です。行職員自身が利用することで、取引先に説得力のある成功体験を語ることができるようになります。
ですが、セールスフォース製品の採用だけでは、効果を出せません。各社の事業内容に合わせて弊社パートナー企業の製品も活用することが、DX化の達成につながると思います。
(里見)他社製品と連携して、セールスフォースの世界観を実現する仕組みづくりは、どのようにされていますか?
(田村)弊社の製品周りに、エコシステムを構築しています。セールスフォース専用のアプリケーションストア「Salesforce AppExchange(アップエクスチェンジ)」では、あらゆる業界・業務の拡張機能を揃えています。このマーケットプレイスに様々な会社が構築したアプリケーションを載せており、セールスフォース製品を基盤とすることで、業務に活用可能なアプリを開発不要で利用することができます。
田村氏は多くの企業で金融業界向け事業を手掛けてきた
地方でのDX実現には、地方銀行、自治体の協力が必要
(里見)地方銀行でもセールスフォース製品の利用が始まっています。地方創生に向け、地域でのDX実現に必要なことはありますか?
(田村)地域の企業を支える地方銀行、さらに自治体の協力が重要です。弊社では、地方銀行に加え、自治体にも利用を提案しております。セールスフォース社には、事業会社で「売上を上げる」「生産性を上げる」という実績があり、企業の「稼ぐ力」に貢献してきました。
この強みを生かしていただくことで、地域のIT活用をレベルアップし、雇用や観光の増加につながると思います。実際に、近年は地方での採用も進んでいます。
金融業界における内製化とデジタル人材不足への対応
(里見)金融機関では、DX推進の枠組みの中で、ローコード開発などを用いたシステムの内製化も注目テーマです。
(田村)近年の課題として、「デジタル人材の不足」も指摘されています。IT製品にさほど詳しくない方が、セールスフォース製品などを使うことで業務がどのように変化するのか。これは、実際に体験してもらうことで、ビフォーアフターを実感できます。
そのため、弊社では、無償でトレーニングプログラムや、ワークショップを提供しています。これは社会貢献活動でもあり、時間をかけてITを学んでいただく機会としています。
既存の業務プロセスを大きく変えずにDX化の実現を目指す、オプロの里見氏
紙をなくし、一貫した業務で、働き方改革の実現を
(里見)「カミレス」はまさに、紙を中心に業務行ってきた企業・団体のために開発しました。このサービスは、セールスフォース社の支援で、始まったプロジェクトです。セールスフォース社のエンジニアから、「カミレス」という名称も含めてアイデアをいただいております。
「カミレス」は、金融機関の窓口に訪問しなくても、自宅などから口座開設や住宅ローン、保険商品の申込といった申請手続きができます。「カミレス」では、紙の申請書を画面上で再現しているため、紙に慣れてきた利用者は直感的に理解できます。これは、紙中心のリテラシーを意識しており、この文化にセールスフォースのプラットフォームを投入したらどうなるのか?といった考えで、開発を進めてきました。
紙帳票の世界観を残しつつ、実績のあるセールスフォースの基盤で、業務効率化を同時に実現している。普段の業務で利用中するセールスフォース上で操作できるため、行員の方が自ら手続き用のフォームを作成するなど、活用されていると聞いております。
(田村)まさに、金融機関でのDXの実現には、紙をなくすことが重要です。事務作業の対応は、セールスフォース製品単体では難しい面がありました。住宅ローンや保険商品の申込受付機能など入口までは提供していますが、最終工程の事務作業までは難しい。ですが、最近は「セールスフォースプラットフォームで、すべて解決したい」というニーズも出ていました。
オプロ社は、帳票の電子化や「Salesforce AppExchange」のアプリ開発に知見があり、申し込みから事務まで一気通貫で対応可能な「カミレス」のサービス提供には期待しています。
なぜなら、弊社にとっても、パートナー企業との連携は重要だからです。利用者は、従来から使っている製品を弊社のCRMなどと連動して便利に使える。弊社も製品を長く利用してもらえるなど、双方にメリットがあります。顧客に価値あるものを提供するため、貴社を含むパートナーとのエコシステムは、重要な意味を持っています。
最後に、紙をなくすことは、業務効率化だけでなく、働き方改革の実現にも大きく関わっています。そこで、わかりやすいUIで表現しつつ、ワークフローを削減した「カミレス」は面白い仕組みだと思っています。
(里見)今後も一緒に、金融機関におけるシステムの内製化、DX支援を行っていきたいと思います。